中小企業退職金少ないは本当？最新データで検証

「中小企業は退職金が少ない」——その“通説”は、どこまで本当なのでしょうか。
最新の公的データをひも解くと、制度の有無から金額水準、そして企業年金の併用の有無まで、企業規模による差は数字としてはっきり表れます。
一方で、中小でも制度設計次第で水準を底上げし、採用や定着の武器に変えられる余地も大きいのが実態です。
本記事では、最新統計をもとにギャップの正体を見極め、従業員と企業それぞれが今日から取れる具体策まで、ていねいに解説します。

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データで見る「退職金の有無」と「水準」

退職金制度の有無（直近公的調査の横断）

• 全国：退職手当制度がある企業 … 74.9％（就労条件総合調査）

• 東京都の中小企業（10～299人）：制度あり … 64.2％（「中小企業の賃金・退職金事情」）

ポイント：中小ほど制度未整備の割合が高い傾向。

モデル退職金の比較（定年・満勤勤続想定）

※中小は都内中小企業の実態把握調査（令和6年版）。大企業は全国の大企業標本（令和5年調査、決算期2022年度）。いずれも定年まで継続勤務のモデル金額

制度の“形”の違い

• 従業員500人未満の企業では「退職一時金のみ」が50％超。

• 規模が大きいほど「一時金＋企業年金の併用」割合が高い。
  （＝年金併用が平均水準を押し上げる）

中小と大企業で差が出る理由

1. 制度設計の違い
   　中小は「一時金のみ」→支給月数が限定的。大企業は企業年金（確定給付／確定拠出）を併用し、総額が厚くなりやすい。

2. 賃金水準と財源力
   　退職金は「賃金の後払い」の性格が強く、基本給や昇給カーブの差が長期で効く。

3. 制度の普及率
   　制度非保有の中小が相対的に多い（東京都データで64.2％が制度あり＝裏を返せば約3社に1社は制度なし）。

いま勤めている会社で“確認すべきこと”チェックリスト

今日から確認できます。求人票・就業規則・人事制度資料を見ましょう。

1. 退職金制度の有無（有／無）と支給形態（一時金／年金／前払い）

2. 受給条件（最低勤続年数・自己都合／会社都合の扱い・懲戒時の取扱い）

3. 計算方法（基本給連動の支給率方式か、ポイント制か、定額か）

4. 制度文書の開示（就業規則や退職金規程は開示義務。人事に請求OK）

5. 企業年金の有無（企業型DC・DB、または中退共・適年代替の有無）

もし制度がない／薄い場合は、iDeCo・つみたてNISA等で自助を厚くするのが基本戦略。会社に確認し、企業型DC導入の検討や中退共加入の議論が進んでいないかも要チェックです。（投資商品選択は各自のリスク許容度で）

企業（中小）ができる改善策

コスト・運用負荷を抑えつつ“見える化”を。

1. 制度の現状把握と“見える化”
   　就業規則・退職金規程を整備し、適用範囲・計算方法・支払い時期を明記。求人・採用広報にも数値で掲載。

2. 一時金＋簡易な年金の“二層化”
   　現行の一時金をベースに、小規模でも導入しやすい年金制度（例：確定拠出年金の小規模プランや退職金共済の活用）を検討。併用比率が上がるほど水準は底上げされやすい。

3. 中退共（退職金共済）等の活用
   　掛金管理や支給事務を共済側に委託でき、社外積立による未払リスク低減・人材採用の訴求に有効。制度全体の運営状況は直近の業務報告にまとまっています。

4. 総額人件費の中での最適配分
   　賃上げ・賞与・退職金のバランスを年次で再設計。昇給カーブと退職金カーブの整合を取る（“後払い”の性格を踏まえる）。

よくある誤解Q&A

Q1. 退職金は法律で必ず払う義務がある？
A. 義務ではありません。 ただし、制度を設けたら規程に沿った支払い義務が生じ、就業規則等に計算方法や支払時期の明記が必要です。

Q2. 中小でも“相場並み”にできる？
A. 可能。 一時金だけでなく年金を薄く併用する・外部共済で積立を進める等で総額と安定性を高めやすい。併用率は規模が大きいほど高いが、中小でも導入事例は増えています。