退職金の相場と税金の基礎｜中小企業の退職金と退職金中小企業平均の実態

「うちの会社、退職金っていくら出るんだろう？」——いざ退職が見えてくると、誰もが最初に気になるのが“相場”と“税金”です。
ところが、ネットには古い数字や大企業中心の話が混じりやすく、中小企業で働く人にとっては自分ごと化しづらいのが実情。
この記事では、公的統計と中小企業向けの最新データから現実的な目安を整理し、さらに税金の基本（退職所得控除と1/2課税、特定役員の例外、源泉の実務）を“手順でわかる”レベルまで噛み砕いて解説します。
読めば、あなたのケースでだいたいどのくらい受け取れて、いくら手取りが残るのかが自分で試算できるようになります。
退職金は一生に何度もない大きなお金。制度のツボと節税のカギを先に押さえて、後悔のない“受け取り方”を選びましょう。

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退職金の相場：最新統計から読み解く全体像

厚生労働省「就労条件総合調査（令和5年、退職給付の支給実態）」では、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に対する定年退職時の1人平均退職給付額が公表されています。

• 大学・大学院卒（管理・事務・技術職）：約1,896万円

• 高校卒（管理・事務・技術職）：約1,682万円

• 高校卒（現業職）：約1,183万円
  （いずれも一時金と年金の併用を現価換算して合算した額）

ポイント：企業規模が大きいほど水準は高い傾向。同調査の詳細表では、従業員規模別でも差が確認できます。

中小企業の退職金はいくら？—首都圏の中小データと全国統計の読み方

東京都の「中小企業の賃金・退職金事情（令和6年版）」のモデル退職金

従業員10～299人の中小企業を対象にした調査。モデル退職金（学歴×勤続パターンで算出）では、定年時の水準は次の通り（単位：千円）。

• 退職一時金のみの企業

  • 高校卒：9,659（=約966万円）

  • 高専・短大卒：9,530（=約953万円）

  • 大学卒：10,513（=約1,051万円）

• 退職一時金＋退職年金を併用する企業

  • 高校卒：9,668（=約967万円）

  • 高専・短大卒：10,546（=約1,055万円）

  • 大学卒：14,075（=約1,408万円）

この調査は中小企業限定かつ首都圏の実勢。全国の平均（前章）よりもやや控えめ～同等の水準が見えます。

全国の企業規模別の傾向（厚労省・令和5年調査）

厚労省の詳細表（全国）では、企業規模が大きいほど退職給付が高くなるパターンが確認できます（例：大学卒・勤続35年の定年退職で、1,000人以上企業が高く、100～299人や30～99人規模では相対的に低い）。

退職金の税金の基本（超重要）：計算式・控除・1/2課税

退職金は「退職所得」として分離課税。計算の流れはシンプルです。

退職所得控除

• 20年以下：40万円 × 勤続年数（80万円に満たないときは80万円）

• 20年超：800万円 + 70万円 ×（勤続年数 − 20）

• 障害者となったことが直接の原因で退職：上記に＋100万円

• 勤続年数は1年未満切り上げ（例：10年2か月→11年として計算）

課税退職所得金額

• 原則：（退職金 − 退職所得控除）× 1/2

• 特定役員退職手当等（役員等で役員勤続5年以下部分など）は、1/2を乗じない（=控除後全額が課税対象）。

源泉徴収と申告書

会社は退職金支給時に所得税＋復興特別所得税を源泉徴収します。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無で源泉計算が変わるため、事前に必ず回収しましょう。

具体例でスッキリ！退職金の税額シミュレーション

前提：復興特別所得税込みの所得税速算表で最終税額は源泉で完結するのが通常です。あくまで概算の考え方を示します。

例1：一般社員（大卒・勤続30年・退職金1,500万円・特定役員ではない）

1. 勤続年数30年 → 控除：800万円＋70万円×10=1,500万円。

2. 退職金1,500万円 − 控除1,500万円 = 0円 → 課税なし。

   長期勤続では控除枠が非常に大きく、非課税になるケースが珍しくありません。

例2：一般社員（高卒・勤続25年・退職金1,200万円）

1. 控除：800万円＋70万円×5=1,150万円。

2. 差引：1,200−1,150=50万円

3. 課税退職所得：50万円×1/2=25万円

4. 25万円に対する所得税（分離課税の速算表で少額）→ 源泉はごく小さくなるイメージ。

例3：特定役員（役員勤続4年・退職金2,000万円）

1. 勤続年数4年 → 控除：40万円×4=160万円。

2. 特定役員退職手当等 → 1/2課税なし。

3. 課税退職所得：（2,000−160）=1,840万円（そのまま総額が課税対象）。

   一般のケースと比べ税負担が非常に重くなる点に注意。

よくある落とし穴と対策

• 申告書の未提出
  → 受給者が「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと、有利な控除・1/2課税を前提にした源泉ができず、過大な源泉になる場合あり。事前回収を徹底。

• 特定役員の取り扱い誤り
  → 役員の在任5年以下部分は1/2課税不適用。就任・在任期間の区分を実務で明確化。

• 複数回の退職金受給
  → 過去分があると控除計算が変わる場合あり。国税庁の注記に沿い、通算ルールを確認。

• 死亡退職金
  → 相続税の対象となる部分は所得税の課税対象外（源泉不要）。

中小企業が退職金制度を整えるときの実務ポイント

1. 水準（相場）の目安を決める

   • 首都圏の中小のモデル退職金を高卒 約950～970万円・大卒 約1,050万円（退職一時金型）、大卒で併用型なら約1,400万円をたたき台に。

2. 支給形態を選ぶ（一時金／年金／併用）

   • 併用は総額が高くなりやすい一方、掛金・会計処理がやや複雑。

3. 外部積立の活用

   • 中小企業退職金共済（中退共）など外部制度を使うと原資づくりと制度運営の安定化に有効。公式統計・年次資料で運用や加入状況を確認しつつ拠出額を設計。

4. 就業規則・退職金規程の明文化

   • 支給事由／在籍要件／勤続年数カーブ（例：勤続20年以降の伸び）を文書化。自己都合・会社都合・早期優遇の差もルール化。

5. 税務・源泉の運用フロー

   • 退職日までに受給申告書の回収→源泉計算→法定調書の一連フローを整備。